委託調査が終わって1年後。「あのときの生データで別の集計をしたい」と事業者に連絡したら、「保存期間を過ぎたため破棄しました」あるいは「二次利用は別途契約になります」——この場面、意外なほど頻繁に起きています。
契約で決めていないものは、事実上、事業者のもの
委託調査で生まれるものを分解すると、報告書のほかに次があります。
- 生データ(検出結果・集計前のデータ)
- 計測の定義(線の位置・集計条件・換算根拠)
- 処理の記録(補正の内容・検証の履歴)
- 知見(この場所ではこの画角が良い、この時間帯は測りにくい、といった暗黙知)
多くの委託契約は「報告書の納品」しか定めていません。すると残りは契約の空白地帯になり、空白地帯のものは実質的に事業者の手元にだけ残ります。悪意は要りません——決めていないだけで、そうなるのです。
仕様書に書くべき3点
1. 帰属。調査で生成されたデータ・定義・記録は発注者に帰属する(または共有とする)ことを明記する。著作権と所有権(データの引き渡し)は別の論点なので、両方書く。
2. 引き渡しの形式。帰属だけ決めても、事業者専用システムでしか読めない形式で渡されたら使えません。汎用形式(CSV・JSON等)での引き渡しと、形式の仕様書を要件にする。
3. 保持と破棄。事業者側の保持期間・破棄の確認方法を決める。特に映像を扱う調査では、破棄はプライバシー上の約束でもあるため、破棄証明までセットで。
「データは誰のものか」は、もめてから決めると必ずこじれます。もめる前——仕様書の段階なら、1ページで済む話です。
事業者の「持ちたくない」事情も知っておく
一方で、事業者側にもデータを持ち続けたくない事情があります。映像やそこから生まれたデータの長期保持は、漏えいリスクと管理コストそのものだからです。私たち自身、原映像は保持せず、統計と軌跡だけを残す設計にしています。
つまり「発注者にきちんと引き渡し、事業者は持たない」は、実は両者にとって合理的な着地です。こじれるのは、どちらが持つかを決めていない場合だけ——ここでも空白が敵です。
チェックリスト
- データ・定義・記録の帰属が契約に明記されているか
- 汎用形式での引き渡しが要件にあるか(専用システム前提になっていないか)
- 事業者側の保持期間・破棄確認が決まっているか
- 再委託・事業者変更の際のデータ引き継ぎが想定されているか
おわりに
調査データは、単年度の消耗品ではなく、まちの資産になり得るものです。資産にするための第一歩は、技術でも予算でもなく、「誰のものか」を契約に一行書くこと。次の仕様書から、どうぞ。