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「0台」と「判定不能」は違います — 数字を出さない誠実さの話

交通量・通行量の報告書でいちばん扱いに注意が必要な数字は「0」です。観測して本当にゼロだったのか、そもそも測れていないのか。実証の現場でぶつかった実例から、「数字を出さない」判断を仕組みにする方法と、発注者側のチェックリストを紹介します。

山本 新山本 新

交通量調査や通行量計測の報告書で、いちばん扱いに注意が必要な数字は何でしょうか。私たちは「0」だと考えています。

同じ「0」でも、意味がまったく違う2つの「0」があるからです。ひとつは「観測したうえで、本当にゼロだった」。もうひとつは「そもそも測れていない」。この2つを区別せずに報告書へ載せると、ゼロという数字が事実のような顔をして、施策判断や審議会の資料に混ざり込みます。

この記事では、私たちが実証の現場で実際にぶつかった例をもとに、「数字を出さない」という判断をどう仕組みにしているかを紹介します。

ゼロには2種類ある

カメラ映像から通行量や駐停車を計測するとき、「数字が出せない」状況は珍しくありません。よくあるのは次のようなケースです。

  • 計測に使える映像の長さが、判定基準より短い
  • 待ち行列や信号待ちの列が、ちょうど計測ラインの上に重なっている
  • カメラの揺れやズームが大きく、その区間の判定が信用できない

このとき「0台」と書くのは誤りです。正しくは「この条件では判定できない」。私たちのダッシュボードでは、これを「判定不能」という独立した表示にしています。ゼロと判定不能は、データ上も画面上も混ざらないように分けています。

実例1: 映像が短ければ「5分以上の駐車」は測れない

「駐停車のうち5分以上のもの(駐車)と5分未満のもの(停車)を分けて数える」——交通の実務では標準的な区分です。ある実証で、この要件に向き合うことになりました。

ところが、その区画を撮影できた映像は2分に満たない長さでした。5分(300秒)の駐車は、そこからは原理的に1件も検出できません。ここで「5分以上の駐車: 0台」と報告してしまうと、「駐車問題は存在しない」という誤った事実が独り歩きします。

私たちのシステムは、映像の長さが判定基準より短い場合、自動的に「判定不能(映像の長さ < 基準の300秒)」と理由つきで表示します。担当者の善意や注意力に頼らず、機械的に判定します。

「0台」= 観測して存在しなかった。「判定不能」= その条件では原理的に測れない。この2つを混ぜないことが、報告書の数字を信頼できるものにする第一歩です。

実例2: 数字は計算できるのに、信用できないとき

もっと厄介なのは、「計算すれば数字は出てしまうが、その数字が信用できない」ケースです。

たとえば乗り場や信号の待ち行列が計測ラインのすぐ上にできる地点では、立ち止まっている人のわずかな揺れが「通過」として二重三重に数えられます。私たちはこれを補正で取り除いていますが、補正量があまりに大きい地点では、補正後の数字は「本当の通行量」ではなく「補正の裏返し」になってしまいます。

そこで私たちは、補正が計測値の半分以上を占め、かつ十分な観測数がある場合、その数字は確定値として出さないという基準を機械的に適用しています。人がケースバイケースで判断するのではなく、基準そのものを固定して、生データと補正量は監査できるように全部残す。数字を「出す・出さない」の判断にも、再現性を持たせるためです。

「5人未満」— 出さない規律はプライバシーにも及ぶ

「数字を出さない」判断は、計測の信頼性だけの話ではありません。通過人数が1〜4人しかいないような細かい集計区分は、時間帯や場所と組み合わせると特定の個人の行動に近づいてしまう可能性があります。

私たちは対外的な表示で、1〜4人のセルを実数でなく「5人未満」と表示しています。一方で「0」は秘匿しません。個人が存在しないセルに伏せるものはなく、「0」と「5人未満」を区別したほうが情報の質が保たれるからです。ここでも「ゼロ」と「出さない」は別の概念として扱われています。

発注者として、何を確認すればよいか

計測やデータ分析を委託する立場から見ると、この話は次のチェックリストになります。

  1. 「0」と「測定不能」を区別して報告する仕様になっているか。区別がなければ、ゼロの意味を毎回確認する必要があります
  2. 「数字を出さない」判断の基準は機械的か。担当者の裁量に依存する基準は、担当者が替わると再現できません
  3. 出さなかった数字の根拠(生データ・補正量・判定理由)は、あとから監査できる形で残っているか
表示意味確認すべきこと
0台 / 0人観測したうえで存在しなかった観測条件(時間帯・区間)が要件を満たしているか
判定不能その条件では原理的に測れない理由(尺不足・行列の重なり等)が明記されているか
5人未満実数はあるが、プライバシー配慮で丸めている元の実数が監査可能な層に残っているか
報告書で見かける「0」の読み分け

おわりに — 出せる数字を増やすより先に、出せない数字を正直に

計測技術の話をすると、「どこまで正確に測れるか」に関心が集まりがちです。しかし行政のデータ活用で実際に事故が起きるのは、測れていないものが測れた顔をして資料に載ったときです。

私たちは、精度の高さを宣伝するより先に、「この数字はどうやって出たのか」「なぜこの数字は出していないのか」を、いつでも説明できる状態を保つことを優先しています。数字を出さない誠実さは、出した数字の信頼の土台になると考えているからです。

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