「バース区画ごとの停車時間を計測してください」——交通結節点の調査で、ごく普通に出てくる要件です。ところが実際に測ってみると、この「停車時間」という言葉には少なくとも3つの定義があり、それぞれ違う数字が出ることが分かりました。
同じ車両に、3つの数字が出る
ある区画に1台のバスがほぼ最初から最後まで停まっている映像を解析したときの例です(数字は概数)。
| 定義 | 数字(概数) | 意味 |
|---|---|---|
| 実際に停まっていた時間 | 約100秒 | 目で見た事実。ただし自動計測はできない |
| 区画内に検出されていた時間(在場) | 約80秒 | 計測上とらえられた「区画がふさがっていた時間」。柱や屋根の陰で検出が途切れた分だけ短くなる |
| 静止と判定できた時間 | 約60秒 | 厳密に「動いていない」と判定できた時間。検出の揺らぎで細切れになり、さらに短くなる |
3つとも嘘ではありません。常に「実際 ≥ 在場 ≥ 静止」の順になり、どれを『停車時間』と呼ぶかを決めない限り、数字は比較も検収もできないのです。
どう決めたか: 問いに対応する定義を主とし、他を併記する
私たちはこう整理しました。行政の問いが「区画がどれだけふさがって使えなかったか」(つまり占有)なら、主とすべきは在場ベースです。厳密な静止だけを数えると、車庫内での切り返しのような「ふさがっているのに動いている」時間が抜け落ちます。
同時に、静止ベースの数字も捨てずに「少なくともこれだけは静止していた」という下限として併記します。どの定義も検出の取りこぼしの分だけ実際より短く出るので、すべて「少なくとも◯秒」という控えめな表現で扱います。実際より大きく出ることはなく、小さく出ることだけがある——その向きを固定しておくと、数字を安全側で使えます。
指標の名前だけでは数字は決まらない。「何と呼ぶか」ではなく「どう定義するか」を仕様で固定する。
仕様書にどう書くか
この話は、調査仕様書の書き方に直結します。「停車時間を計測すること」とだけ書くと、事業者ごとに違う定義で測り、比較不能な数字が納品されます。最低限、次を固定することをお勧めします。
- 定義: 在場(区画内に存在)か、静止か。判定の基準点(車両のどこで区画内外を判定するか)
- 時間区分: 「5分以上を駐車とする」等の区分と、その判定に必要な連続観測時間
- 表現: 計測の取りこぼしを踏まえ、上限・下限どちら側の値として扱うか
- 複数定義の併記: 主たる定義のほかに、比較用の定義も残すか
おわりに
「定義の話」は地味で、調達の現場では飛ばされがちです。しかし数字が施策の根拠になる瞬間、効いてくるのは必ず定義です。同じ言葉から3つの数字が出る——この事実を知っているだけで、報告書の読み方が変わるはずです。