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「隣の市と比べたい」の落とし穴 — 都市間比較が成立する条件

他都市比較は政治的に最も需要があり、計測的に最も成立しにくい数字です。定義・地点の性格・手法の3つの壁と、「自市の経年変化」に主戦場を移す現実解、「比較できません」の実務的な言い方について。

山本 新山本 新

「隣の市は駅前の通行量が◯万人らしい。うちはどうなんだ」——首長からも議会からも、必ず出てくるリクエストです。他都市比較は、政治的に最も需要のある数字かもしれません。

そして、計測の観点で最も成立しにくい数字でもあります。

比較が壊れる3つの理由

1. 定義が違う。A市の「駅前通行量」は駅出口の断面、B市は中心商店街の断面かもしれない。歩行者だけか、自転車込みか。平日か休日か。定義の違う数字の比較は、比較ではありません。

2. 地点の性格が違う。駅の構造(出口の数・バスとの結節)や商業の配置が違えば、「駅前」という言葉が指す空間の性格そのものが違います。同じ定義で測っても、比べているのは施策の成果ではなく地形かもしれません。

3. 計測手法が違う。目視調査・センサ・カメラ・キャリア統計——手法ごとに癖(数え漏らし・捕捉率)が違い、手法間の数字は単純に並びません。

「隣より多い/少ない」の大半は、施策の差ではなく、定義と地形と手法の差を見ています。順位表は、作れてしまうことと意味があることが違うのです。

それでも比較したいときの現実解

主戦場を「自市の経年変化」に移す。他市との横比較より、自市の去年との縦比較のほうが、定義を固定できるぶん圧倒的に堅い。「隣より多い」ではなく「うちは3年連続で回復している」が、実は強い政治的メッセージになります。

比べるなら「率」と「形」。絶対数ではなく、変化率(前年比)や時間帯の形(夜間の比率など)は、地形の差をある程度打ち消します。それでも定義の確認は必須です。

将来: 同じ定義の都市同士なら、比べられる。計測の定義と手法を揃えた都市の間でなら、横比較は初めて意味を持ちます。比較可能性は、あとから頑張るものではなく、最初に設計で揃えるものです。

「比較できません」の言い方

首長や議会に「他市とは定義が違うので比較できません」とだけ返すと、やる気がないと受け取られます。実務的な返し方は、比較できない理由+代わりに言えること のセットです。「単純比較はできませんが、当市の経年では◯◯です。他市比較をするなら、まず定義を揃えた計測が必要で、その費用は◯◯です」——ここまで言えば、無意味な順位競争が、意味のある計測投資の議論に変わります。

おわりに

他都市比較への欲求は、健全な競争心の表れです。問題は欲求ではなく、比較に耐えない数字で順位をつけてしまうこと。比較したいという政治のエネルギーを、定義を揃える投資に変換できたとき、その欲求は初めてまちの役に立ちます。

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