報告書やダッシュボードには、それらしい言葉が並びます。「補正済み」「検証済み」「精度」「占有」。この記事の主張はひとつだけです——これらの言葉を、定義を確かめずに信用しないでください。
同じ言葉が、違うものを指す
私たち自身の開発でも、こういうことが起きました。
- 「補正」が2つあった。見た目を安定させる処理と、計測座標を戻す処理は別物なのに、どちらも「補正」と呼ばれて混ざりかけた
- 「占有時間」という名前の数字が、実際には別の定義(静止していた時間)を指していた時期があった
- 「検証済み」の中身が、地点によって「正解と突合した」だったり「目視でざっと見た」だったりした
言葉は放っておくと、実体からずれていきます。悪意は要りません。開発が進み、定義が更新され、名前だけが古いまま残る——それだけで、名前と実体の乖離は自然に発生します。
対策: 用語ごとに「定義の正本」を1つ決める
私たちは対策として、システムに用語辞典のページを作りました。仕掛けは単純で、用語ごとに次を1行ずつ書くだけです。
- 平易な説明(何をするものか)
- 定義の正本の場所(この用語の意味を決めるファイル・文書はどれか。必ず1つ)
- 名前と実体の注記(この名前から誤解しそうなこと。例:「補正済み」は「全部直った」ではなく「路面上の点だけ正しく戻った」を意味する)
3つ目が肝です。用語辞典というと定義を書く場所だと思われますが、実際に事故を防ぐのは「この言葉はこう誤解されやすい」という注記のほうでした。
言葉の定義は1箇所に。同じ定義を2箇所に書くと、片方だけ更新されて必ずずれる。辞典は定義を「書く」場所ではなく、正本を「指す」場所にする。
報告書を受け取る側の防御術
この考え方は、報告書を読む側の質問リストに変換できます。
- 「補正済み」— 何を、どんな方法で補正したのか。補正の量はどこに書いてあるか
- 「検証済み」— 何と突き合わせたのか。検証できた範囲とできていない範囲の区別はあるか
- 「精度◯%」— 分母は何か。どの地点・どの期間の値か
- 「(指標名)」— その言葉の定義はどの文書にあるか。次回調査でも同じ定義を再現できるか
どの質問も、良い事業者なら即答できます。即答できない言葉は、その報告書の中で実体を持っていない可能性があります。
おわりに
データ活用の failure は、数式ではなく言葉から始まることが多い——これが私たちの実感です。言葉の定義を固定する作業は退屈ですが、退屈な作業を先にやったチームだけが、あとで数字を信じられます。