「居心地の良い空間」「滞在したくなるまち」。ウォーカブルなまちづくりの文書には、滞在という言葉が必ず登場します。では滞在は、どう測るのか。結論から言うと、通過を数えるより一段むずかしく、その難しさを知らずに発注すると、実態より良く見える数字を受け取ることになります。
通過は線、滞在は「同じ人を追い続けること」
通過のカウントは、線を1本引いて、横切った数を数えれば成立します。滞在はそうはいきません。ある人が広場に12分いたと言うためには、その人が広場に現れてから去るまで、同一人物として追跡し続ける必要があります。
ここに構造的な弱点があります。柱や屋根の陰、人混みの重なりで追跡は途切れ、AIは同じ人を別の人として数え直します。すると何が起きるか。12分の滞在が、6分と5分の2人分に化けるのです。滞在時間は実際より短く、滞在人数は実際より多く出る——この向きの誤りが、放っておくと系統的に発生します。
「平均滞在時間」がいちばん危ない
この性質を知ると、報告書でよく見る「平均滞在時間◯分」の読み方が変わります。追跡の分断が多い環境ほど平均は短く出るので、障害物の多い広場と見通しの良い広場を平均値で比べると、環境の差が滞在の差に見えてしまいます。
私たちは滞在系の数字について、次の扱いを標準にしています。
- 分断の影響を受けた値であることを明示し、「少なくともこれだけ滞在した」という下限として扱う
- 平均だけでなく分布(短い滞在と長い滞在の割合)を出す。分断は長い滞在ほど削るので、分布の形が診断材料になる
- 追跡の切れをつなぎ直す処理を入れる場合は、つないだ件数を表示し、公表値の定義(つなぐ前/後)を固定する
滞在の数字は、原理的に「実際より短く・人数は多く」の向きに歪みます。下限として読む・分布で読む・処理の有無を確認する——この3点で、居心地の効果検証は格段に堅くなります。
ベンチや日陰の効果検証をするなら
滞在計測の主な使い道は、ベンチ・日陰・芝生といった設えの前後比較です。このとき前後で比べるべきは「平均が伸びたか」だけではありません。
- 短時間の通過的な立ち寄りが、中時間の滞在に変わったか(分布の山の移動)
- 滞在の発生場所が、設えの周辺に移動したか
- 計測条件(画角・追跡の分断率)が前後で同等か——ここが崩れていると、効果ではなく計測の差を見てしまう
発注者として、何を確認すればよいか
- 滞在の定義(何秒以上を滞在と呼ぶか・区画はどこか)が仕様にあるか
- 追跡の分断への対処と、その処理の記録があるか
- 平均だけでなく分布が納品されるか
- 前後比較の場合、計測条件の同等性がどう担保されるか
おわりに
滞在は、ウォーカブル政策の成果を測る本命の指標でありながら、いちばん誤読されやすい指標でもあります。「測れます」という提案には、「どう分断に対処し、どう下限として扱うか」まで聞いてください。その答えの精度が、そのまま効果検証の精度になります。