AIによる通行量計測の検証をしていて、ある地点だけカウントが人力より2割ほど少ない、という結果が出たことがあります。AIの検出漏れを疑って、通過の記録を1件ずつ動画と突き合わせました。
見つかった主因は、AIの性能ではありませんでした。計測線が短くて、線の端のわずかに外側を通る人を数えられていなかったのです。実在の通行者が、線の端から数十センチ外を歩いて「計測範囲外」になっていました。
線を引き直したら、誤差の大半が消えた
計測線を、床のタイルや柱といった動かないものを基準に引き直し、通路の端まで届く長さに延長しました。アルゴリズムには一切手を入れていません。それだけで、2割あった過小がひと桁台まで縮みました。
通行量計測の誤差というと「AIがどれだけ賢いか」の話だと思われがちですが、実務で先に効くのはどこに・どの長さで・何を基準に線を引くかです。しかもこの情報は、報告書の集計表からは見えません。
線の位置が持つ、もうひとつの罠
線の位置は「数え漏らし」だけでなく「数えすぎ」も生みます。乗り場や信号の待ち行列のすぐ上に線があると、立ち止まっている人のわずかな揺れが何度も「通過」として数えられるのです。
私たちは、線の近くで同じ物体が短時間に行き来していないかを保存データから自動で数え、往復が多い線には「この線は滞留場所にかかっている=位置が悪い」と警告を出す仕組みを入れています。線の善し悪しを、人の目分量ではなく数字で判定するためです。
計測の品質は、アルゴリズムより先に「線の引き方」で決まる。そして線の位置は、集計表には残らない。
「どこで測ったか」は成果物の一部
この経験からの実務的な結論はシンプルです。計測線・計測区画の正確な位置と根拠(何を基準に引いたか)を、数字と同格の成果物として残すこと。これがないと、次の3つが起きます。
- 誤差の原因調査ができない(線のせいか、AIのせいか切り分けられない)
- 次回調査で同じ場所を再現できず、経年比較が崩れる
- 「その断面でよかったのか」という事後の問いに答えられない
発注者として、何を確認すればよいか
- 計測線・区画の位置図(何を基準に引いたか付き)が納品物に含まれるか
- 線の位置の妥当性(滞留場所にかかっていないか等)を、機械的に確認する工程があるか
- 誤差が出たとき、線の要因とアルゴリズムの要因を切り分けて報告する契約になっているか
おわりに
「AIの精度は何%ですか」という質問はよく受けます。私たちはその前に「線はどこに引きますか。その位置でよいか、一緒に確認しませんか」と聞くようにしています。数字の信頼は、案外そういう地味な合意から始まります。