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「精度は何%ですか」に一つの数字で答えない — 交通量調査の仕様書で先に決める4項目

AI映像解析の交通量調査で、精度%を一つの数字で書くと検収で揉めます。国交省の機器仕様書(令和8年1月版)が精度要件の前に決めている4つ——対象と範囲、入力条件、精度の時間帯と範囲外の協議、欠測の閾値——を、転記できる文例つきで。

山本 新山本 新

「精度は何%ですか」。AI映像解析による交通量調査の話をすると、たいてい最初にこの質問が来ます。発注する側にとっては当然の問いです。仕様書に書ける数字がひとつ欲しい。比較表に並べられる数字がひとつ欲しい。

ただ、この問いに一つの数字で答えた瞬間、その数字は全時間帯・全車種・全天候に対する約束として読まれます。書いた側にそのつもりがなくても、検収の場ではそう読まれます。

では精度を書かなければいいのかというと、そうではありません。国土交通省の機器仕様書は、精度要件をきちんと数字で置いています。ただしその数字が意味を持つ範囲を、先に4つ確定させたうえで置いています。この記事は、その構造を仕様書の実物から読み取る話です。

一つの数字で答えると、検収で何が起きるか

「精度95%」とだけ書かれた仕様書で、実際に起きることを並べます。

  • 夜間の1時間を目視と突合したら外れた。この1時間は契約不適合か、それとも要件の対象外か——仕様書に書いていないので決まらない
  • 車種別の内訳が合わない。精度要件は「交通量」に対するものだったのか、車種別にもかかっていたのか——書いていないので決まらない
  • カメラの画角が調査期間中に変わっていた。入力側の条件が崩れたとき精度要件がどうなるか——書いていないので決まらない

いずれも、精度の数字が低すぎたから起きた問題ではありません。数字が効く範囲を書いていないから起きた問題です。

逆に、条件を細かく付けて「95%(ただし晴天日の7〜16時、上下線合計に限る)」と正直に書くと、入札の比較表では条件が落ちて「95%」の1セルに潰されます。正直に書いた側が不利になる構造がある。だから条件は、提案書ではなく仕様書の側に書かれている必要があります。

国の仕様書は、精度の前に何を決めているか

国土交通省「画像認識型交通量観測装置 機器仕様書」(令和8年1月版)を読むと、精度要件そのものは1項目しかありません。その前後に、範囲を決める条項が並んでいます(国交省の一覧ページ)。

条項決めていること
2-3(2)イ4車線以下の車線が写っている一つの映像を対象とする
2-3(1)入力カメラ映像の条件(高さ・俯角・フレームレート・検知対象の画素数・天候・遮蔽・カメラ位置・画角)
2-3(2)ウ混雑時(7時〜9時)および非混雑時(9時〜16時)に、上下線別の自動車交通量が手作業による観測値(正解値)の±10%以内。それ以外の時間帯は「別途協議」
2-3(2)カ大型車・小型車別、バス、普通貨物車、歩行者類、動力付き二輪車類、自転車類は「観測対象とするが、観測精度の確保は求めない」
2-4観測性能の確認が可能であること。確認の方法は特記仕様書による
別表末尾1時間のうち正常に観測できた時間が45分以上なら補完、45分未満ならその1時間は欠測
令和8年1月版が、精度要件の周りに置いている条項

読み取れる構造はこうです。精度の数字は最後に置かれている。 対象を切り、入力条件を書き、時間帯と対象を限定し、精度を求めない項目を名指しし、範囲外を協議事項として切り出し、使えないと判断する閾値まで決めたうえで、±10%という数字が置かれています。

範囲を広げるとき、精度保証は一緒に広げていない

この構造がよく分かるのが、旧版からの差分です。令和8年1月版は入力条件を「24時間かつ、天候を問わない映像」としました(2-3(1)ウ。豪雨・豪雪・暴風雪・地吹雪・濃霧等で視界の確保が困難な場合と、映像のピントが合わない場合は除外)。旧版(令和元年6月の「案」)は「降雨・霧・積雪等のない晴天時の映像」でしたから、対象は大きく広がっています。

ところが精度要件の時間帯は7時〜9時・9時〜16時のまま据え置きで、それ以外は「日中・晴天時と同等の映像品質が確保できていることを基本とするが、観測性能については別途協議とする」と書かれています。

対象範囲を広げるときに、精度保証も一緒に広げてしまう必要はない。広げた分は協議事項として切り出しておく。夜間や雨天を含む調査の仕様書を書くとき、この書き分けはそのまま真似できます。

入力条件を満たしても、精度が出るとは限らない

北陸地方整備局が管内63基のAIトラカンについて、同じ映像を人手観測したデータと比較して独自に検証した報告があります(試行的活用について)。観測精度90%以上だったのは、昼間混雑時で44基/63基、昼間非混雑時で42基/63基、夜間で19基/63基でした。

報告書には、仕様書に大型車・小型車別の観測が可能と記載されているものの、使用したCCTV映像ではナンバープレートの識別が困難だったため全車種・上下平均での集計とした、とも書かれています。精度が出なかった原因のひとつには、道路管理のためカメラの画角を変えていた時間があったことが挙げられています。

時点の注記です。この検証は令和4年8月〜令和5年1月に、交通状況が通常と異なる日を避けた晴れの日を対象に実施されたもので、当時の仕様書は令和元年6月の「案」版、入力条件は「降雨・霧・積雪等のない晴天時の映像」に限定されていました。現行の令和8年1月版の要件下での検証結果ではありません。

それでも読み取れることがあります。入力条件を晴天日に絞っても3割強が要求水準に届かず、地方整備局自身が車種別の検証を見送っている。仕様書に精度%を書けば品質が担保される、という前提のほうが成り立っていないのです。

運用側は、そのまま成果にしていない

九州地方整備局がAIカメラを一般交通量調査に使った際の報告(九州技報 第72号)では、手順がこう整理されています。

  • 検証により精度が確保できた時間帯を整理して観測方向ごとに分類(精度ケースの設定)
  • 機材トラブルの報告があった日や天候不良日を異常日として設定し、結果を異常値として除外
  • AI観測結果に補正係数(目視交通量÷AI交通量)を乗じて一般交通量調査用の交通量を設定

国総研から配布された補正ツールを使っています。つまり国の運用でも、AIの観測値をそのまま成果としてはいません。条件を切り、異常日を除き、目視との比で補正する。条件を切ることは逃げではなく、業界の標準的な手続きです。

なぜ一つの数字にできないか(傍証)

全国約1,200箇所のCCTV-AIトラカンについて、観測誤差±10%以内を満たす割合を集計した報告があります(土木技術資料 65-11(2023))。

全車種小型車大型車
混雑時97.0%52.3%12.1%
非混雑時96.6%49.7%13.9%
夜間32.3%31.8%19.8%
観測誤差±10%以内を満たす割合(土木技術資料 65-11(2023))

同じ機器・同じ地点でも、対象と時間帯を変えると数字がこれだけ動きます。一つの数字で書けないのは、書き手が不誠実だからではなく、対象と時間帯を指定しないと数字が決まらないからです。

精度%より先に決める4項目

以上を、仕様書に書く順番に並べ直します。なお仕様書全体の網羅的なチェックリストは通行量調査の仕様書に入れるべき10項目にあるので、ここは精度要件の周りに絞ります。

1. 対象と範囲を切る

何を観測対象に含め、何を含めないか。車線数、地点、そして観測対象の種別です。国の仕様書が「4車線以下」と書き、車種別を「観測対象とするが、観測精度の確保は求めない」と書き分けているのがこれにあたります。

種別の切り方には前例があります。平成22年度の道路交通センサスでは、可搬式トラフィックカウンター等の機械式調査を積極的に導入するため、車種区分を4車種(乗用車、小型貨物車、バス、大型貨物車)から2車種(小型車、大型車)へ簡素化しています(土木技術資料 55-3(2013))。現行の一般交通量調査の調査事項も、方向別2車種別の通過交通量です。

自治体側にも実例があります。島根県の測量調査設計等共通仕様書は、交通現況調査の車種分類を「監督職員の指示による以外は大型車・小型車の2分類」とし、渋滞調査については「交通渋滞実態調査マニュアル」(旧建設省土木研究所)に準ずる、と準拠先まで書いています。

種別を細かく求めるほど良い仕様書、ではありません。測れる粒度と、判断に要る粒度を、先に揃えるのが仕事です。

2. 入力条件を書く

精度要件が生きるのは、どういう映像に対してか。国の仕様書は、カメラ高さ6.5m以上・俯角20〜30度程度、フレームレート20fps以上、検知対象がFull HDで50×50ドット以上、汚れ・水滴・樹木の繁茂や看板または他車両等による遮蔽・反射光などのハレーション・カメラの揺れがないこと、カメラが交通量観測用プリセット位置にあること、車両走行方向に対して斜め±45度の範囲内であること、を並べています(2-3(1))。

ここが書かれていない仕様書は、検収の場で揉めます。北陸地整の報告にあった「道路管理のためカメラの画角を変えていた」は、まさに入力条件が崩れた例です。入力条件は、受注者を守る条項であると同時に、発注者が品質を要求できる根拠でもあります。

3. 精度を求める対象と時間帯を限定し、範囲外は協議事項として切り出す

精度要件は、対象(何の数字か)と時間帯(いつか)を指定して初めて検収できます。国の仕様書は「混雑時(7時〜9時)および非混雑時(9時〜16時)において、上下線別の自動車交通量が手作業による観測値(正解値)の±10%以内」と、対象・時間帯・突合先・許容幅の4つを1文に入れています。

そして範囲外は消さずに、「別途協議」として残す。ここが実務的に効きます。要件から外すのではなく、協議事項として明示する。外してしまうと後から要求が復活したときに根拠がなく、書いてあれば協議の入口になります。

あわせて、確認の方法をどこに書くかも決めておきます。国の仕様書は「観測性能の確認が可能であること。確認の方法は、特記仕様書によるものとする」(2-4)と、確認方法の置き場所そのものを指定しています。

4. 使えないと判断する閾値を、先に決める

どれだけ欠けたら、その時間帯の数字を使わないか。国の仕様書は別表の末尾で、1時間のうち方向別5分間交通量が正常に観測できた時間の累計が45分以上なら補完、45分未満なら欠測と決めています。補完値は「正常に観測できた時間の総交通量 × 60分 ÷ 正常に観測できた時間(分)」で、補完したこと自体も1時間集計速報値のフラグ(0:処理不要/1:5分間値による拡大/2:5分間値不足により欠測扱い)として残ります。

この閾値を先に決めておく意味は、結果を見てから基準を動かせなくすることにあります。データが出てから「何分欠けたら欠測とするか」を決めると、都合のよい側に寄せられる余地が残ります。

なお、欠測を0として集計しない——測れなかったものと、測って存在しなかったものを分ける——という論点は「0台」と「判定不能」は違いますで扱っているので、ここでは繰り返しません。

仕様書に転記できる文例

4項目を、そのまま貼って埋められる形にします。〇〇は案件ごとに決めてください。

1. 対象と範囲

本業務で観測精度の対象とする交通量は、〇〇(例:上下線別の自動車交通量)とする。車種別の内訳(大型車・小型車の別を含む)は参考値として提出するものとし、観測精度の確保は求めない。観測対象とする車線数は〇車線以下とする。

2. 入力条件

前項の観測精度は、次の条件を満たす映像に対して適用する。(1)カメラ高さ〇m以上、俯角〇度程度(2)フレームレート〇fps以上(3)検知対象が〇×〇ドット以上(4)汚れ・水滴・遮蔽・反射光によるハレーション・カメラの揺れがないこと(5)カメラが観測用の所定位置にあること。これらを満たさない映像については、観測性能を別途協議とする。

3. 精度の対象・時間帯と、範囲外の扱い

〇時〜〇時において、〇〇が手作業による観測値(正解値)の±〇%以内であること。上記以外の時間帯については、同等の映像品質が確保できていることを基本とし、観測性能については別途協議とする。観測性能の確認方法は、特記仕様書によるものとする。

4. 欠測と補完

1時間のうち、正常に観測できた時間の累計が〇分以上の場合は、正常に観測できた時間の総交通量に「60分÷正常に観測できた時間(分)」を乗じた値を補完値とし、補完を行った旨をフラグとして記録する。〇分未満の場合は当該1時間を欠測として扱い、数値は空欄とする。

停車時間のように「1件ごとの記録」を扱う調査では、これに行の粒度と結合ルールの項目が加わります。そちらは停車データを1件1行で納めるに書きました。

おわりに

私たち自身の検証範囲も書いておきます。社内で条件を明記して検証できているのは、京都駅烏丸口での自社撮影に基づく限られた地点・限られた尺のもので、たとえば夜間3分3秒の映像から出した停車の判定は、閾値を20px・25px・30pxと動かすと件数が36件・34件・31件と変わります。この映像では「5分以上の駐停車」は原理的に判定できません(映像が182.6秒しかないためです)。雨天・逆光の条件下での検証は進行中で、24時間の連続映像を通しで処理した社内実績もありません。

こう書くと弱く見えますが、検証できた範囲と、できていない範囲を、同じ精度で書けることのほうが、一つの高い数字より仕様書の役に立ちます。国の仕様書がやっているのも、結局それです。

「精度は何%ですか」と聞かれたら、数字の前に4つ聞き返す。対象は何か、入力条件は何か、どの時間帯か、どれだけ欠けたら使わないか。この4つが決まれば、精度の数字は自然に決まります。決まらないなら、まだ仕様が決まっていないということです。

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