手持ちで撮った映像は揺れます。揺れた映像を見ると、誰でも同じことを考えます——「先に映像を補正して安定させてから数えれば、精度が上がるのでは」。
私たちも同じことを考えて、人力カウントのある複数の地点で実験しました。結果は逆でした。
映像を「きれいに」したら、検出が壊れた
映像全体を画像処理で安定化してから解析したところ、揺れが小さい地点ではほとんど効果がなく、揺れが大きい地点では検出そのものが壊れました。ある地点では、カウントの元になる検出数が半分近くまで落ちています。
原因は、安定化処理が映像の画素を引き伸ばしたり切り落としたりするため、AIが学習してきた「自然な見え方」から映像が離れてしまうことにあります。人の目に見やすい処理と、機械の計測に良い処理は、別物だったのです。
使い分け: 計測は元映像、表示は安定化
実験の結果、私たちは処理の役割を分けました。
- 計測は元映像のまま行い、揺れの影響は「画素」ではなく「座標」のレベルで補正する(検出した位置を数学的に戻す)
- 安定化した映像は、人が確認のために見る再生画面でだけ使う(見やすさ専用と明記する)
- 処理が強すぎて計測が信用できない映像は、無理に数字を出さず判定不能として扱う
「見た目がきれいになった」は「計測に良くなった」を意味しない。前処理を足すときは、足す前と後で数字がどう動くかを、正解付きの映像で必ず確かめる。
否定された実験も、公開する価値がある
この実験は「安定化してから数える」という自然な発想を否定するものでした。私たちはこの結果を、成功した施策と同じ粒度で記録に残しています。同じ発想は誰でも思いつくので、「試して、だめで、理由も分かっている」という記録が次の判断を速くするからです。
発注者として、何を確認すればよいか
- 解析の前に映像へどんな前処理をかけているか、一覧で示せるか
- その前処理の効果検証(before/after)を、正解付きデータで行ったか
- 見た目用の処理と計測用の処理が、成果物の中で区別されているか
おわりに
計測パイプラインに処理を1つ足すことは、誤差の源を1つ足すことでもあります。「良かれと思った前処理」ほど検証されずに入り込みます。処理は少なく、検証は多く——地味ですが、これが数字を守ります。